
執筆者
M.O.
山に棲むとされる妖怪、天狗

さて、三番手は有名な存在である妖怪の登場です。
天狗と言えば、赤い顔に長い鼻または鳥のくちばし、背中に大きな翼を持ち、空を自在に飛び回る武芸や法力に長けた日本の山岳信仰や民間伝承に登場する霊的存在として描かれています。
山の神格・修験者像・怪異の担い手という側面を持つとされています。
その天狗を解き明かすうえで特徴的・特筆すべき点として、先にも言及しました修験者としてのイメージである山伏の装束に身を包んでいるという点です。
山伏とは何でしょうか(山伏の役割と修行)
山で修行するタイプのお坊さんというイメージでしたが、念のためそのイメージが間違っていないか調べてみました。
山伏(やまぶし)とは、日本の山岳信仰と仏教(特に密教)が融合した修験道(しゅげんどう)を実践する宗教者のことです。
彼らは深山幽谷(しんざんゆうこく)に入り、厳しい修行を通じて悟りを開き、超自然的な力(験力/げんりき)を得ることを目指します。
◆修験道(しゅげんどう)の修行者
修験道: 山伏が開いたとされる 役小角(えんのおづぬ)を祖とする宗教です。
山を神聖な修行の場、あるいは仏の住む場所(浄土)と見なし、山に入ることで霊的な力を身につけようとします。
◆修行(入峯/にゅうぶ)
滝に打たれたり、断食をしたり、険しい崖を登ったりといった厳しい修行を行い、心身を鍛錬します。
この修行により、山に宿る霊力や仏の力を自らの身に宿すと信じられています。
山伏の修行は段階的に積み重ねられ、最終的には人知を超えた力を得ることを目指すものでした。
有名な天狗の一説

天狗=山伏である
正直、こう言って終わらせてもいいような気がしますが、とりあえず、天狗の伝説をいくつか確認してみましょう。
日本の山岳信仰や民間伝承や、とても有名な一説など様々な話はあります。
◆源義経(みなもとのよしつね)
平安時代末期の武将、源義経(みなもとのよしつね)が幼少期(牛若丸/うしわかまると呼ばれていた頃)、京都の鞍馬寺に預けられていた際に、夜な夜な山中で鞍馬山の僧正坊(そうじょうぼう)という大天狗に会い、剣術や兵法を教わったとされています。
義経が類まれなる武術の才能を持つのは、この鞍馬天狗という妖から教えを授かったため、という物語性を持たせたものであるとされています。
実際に、
史実として確認できるのは、「義経(牛若丸)が鞍馬寺に預けられたこと」までで、天狗に剣術や兵法の教えを受けたということは、後世に付け加えられた伝説の様です。
この天狗伝説は、
後世の能や浮世絵、小説、時代劇などで繰り返し描かれたり演じられたことで、「義経(牛若丸)=天狗に教えを受けた、育てられた若き天才武将」というイメージが日本文化の中に定着していった様です。
◆天狗の仕業!?
子供や若者が突然姿を消す事件が起こると、それは山に住む天狗の仕業だと考えられました。
さらわれた人間は、数日後に服がボロボロになった状態で、記憶を失って発見される、という話が多く残っています。
こちらは特定の話ではありませんが、山で何か起きると「天狗の仕業じゃ!」となる、という話だと思っていただければ良いかと思います。
天狗と山伏

両者の深い関係性
天狗とはそもそも山伏を強く意識されており、山伏もまた、修行によって超自然的な力を得ることを目指していました。
つまりそもそも山伏は、天狗を含めた超常の存在を目指していると取れます。
・武術における卓越性
山中で激しい修行を繰り返すことから、義経伝説のように、武術においても優れた存在であるとされていました。
・超常現象の説明者
各地の野山で起きる、容易く説明ができないような事象は、天狗の仕業として語られ、まさに超常的な能力も備えているとされます。
・伝説の形成
山伏の中でも特に激しい修行に挑んでいた者が、伝説的に語られたのではないでしょうか。過酷な修行と厳しい食事制限により、その表情は険しいものになっていたことでしょう。
・土地に紐づく物語
山伏の目標と近しい存在である天狗として語られていくうちに、個人や土地に紐づいた内容が追加されていったのではないでしょうか。
天狗の長い鼻の意味
一説に、天狗の鼻が長いのは、傲慢さやプライドの高さの表れとされます。
もともとは鳥のくちばし状でしたが、人間の傲慢さを戒める仏教的・道徳的な意味づけから、赤い顔に長い鼻の「大天狗」の姿が一般化したとのことです。
◆外からの視点
山伏の一部に、厳しい修行を乗り越えた自分に増長してしまった者や、山を神聖なものとして近隣の住民が入り込むことを厳しく拒む者がいた等で、「あれは山伏ではなく、妖怪の天狗だ」と言われるようになってしまった、というのはどうでしょうか。
◆内からの視点
逆に山伏の間で、修行の中で謙虚さを失ってしまうと天狗になる、などといった形で、宗教的に意味を持たせていたことも考えられますね。
因みに、
天狗の赤い顔は「もともと山伏がつけていた赤い面」が元になったという説明がよくされています。
山伏が山で修行している時に、一般の人が山に入ってくるのを嫌い、魔除けの色とされた赤い面をつけて人を威嚇した。それが、天狗のイメージと重なって「赤い顔の天狗」として定着したという説です。
天狗伝説の正体(まとめ)
01 天狗の起源
天狗とは、山伏が修行の先に力を得たとされる存在です。
02 神聖な存在として
当初は山の守り神のような神聖な存在とされており、武術や超自然の力の扱いに長けた存在であるとされていました。
03 怪異の説明として
超自然の力を持つとされることは、山で起きた事件等においては、理由を天狗の仕業などで片付けられるような一面もありました。
天狗の伝説が広まると、デフォルメされた鼻が長い姿で描かれるようになり、山の厄介者を指す意味で用いられることもありました。
山伏においても大衆に広まった伝説を利用する形で、謙虚さや慢心に対する警句として、精神面における宗教上の意味を持つようになりました。
身も蓋もない言い方をすれば、山で修行する人を派手に盛った伝説が天狗伝説ですね。
「もはや天狗は恐るるに足らず!」というのは言い過ぎでしょうか。













